まずは一般論をご紹介します。
差し迫った脅威と思われることに対して抱く不安は実際の脅威より遥かに大きい
これは不動産を含む人生に起こる多くの出来事に当てはまります。特にわたしが「FOFD (Fear Of Future Developments) ー 将来の開発への不安」と呼ぶ脅威もそれに当たります。この脅威は私たちの決定能力を鈍らせてしまいます。不安をいかに克服するのかという本題に入る前に、不安をはどうのようにして生まれるのかについて確認しておきましょう。
数十万年もの間、私たちの脳は認識された脅威に細心の注意を払うよう進化を遂げてきました。そのようにして先祖が生き延びてきたおかげで今日は私たちがあります。
今では、認識される脅威の本質が異なります。数千年前は、藪木の奏でるカサカサという優しい音も獲物を狙って隠れている虎の動く音だったかもしれません。今日では、暴力により命が縮まることは少なくなりました。現代生活での脅威の多くは生死に関わるものではありません。
しかし、進化のなかで脳は生まれつき持つ反射神経を手に入れました。今日私たちが認識する脅威が生死に関わるものでなくても同様の恐怖反応引き起こします。そのためその恐怖反応が今日の脅威に照らし合われると過度に大きくなっている可能性があります。
今日よりもはるかに危険だったかつての世界において、恐怖心(不安)は生き残るための価値ある感情でした。格闘して、格闘して、固まる(捕食者の脅威が去るまでじっとしておく)ことで命を守り、人類は自然淘汰なかで生き残ることに成功しました。
今日では、同等の恐怖反応は逆効果になりがちです。恐怖心(不安)が怒りに変わる時、人生において何が大切なのかをあらためて見直す必要があるかもしれません。
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不安を抱く近隣住民が新たな開発に激しく反対
近年人気急上昇中のカカアコ地区は、金融街であるホノルルのダウンタウンと人気のショッピングエリアであるアラモアナの間に位置します。
ホノルルの新たなアーバンハブとなった活気溢れるカカアコは、「住む」、「働く」、「遊ぶ」を求めて多くの人が集まります。
最近も数件のコンドミニアムが完成したばかりです。さらに、通勤に利便性の高い新たな鉄道、ショッピング施設やエンターテイメント施設とともに新規コンドミニアムの建設が行われています。
しかし、なかにはこれから起こる変化に対して不安を抱くカカアコ住民もいます。交通事情やインフラ関連を挙げてこのように不満を訴えています。
「うちの庭先ではやらないで。私たちはここに先に住んでいたのだから!開発で自宅からの眺望、この街の平和と平穏が損なわれてしまった。交通量が増えて私の住む街は飽和状態だ。」
個人の権利に対する怒り?ー私たち人間は変化や不確実性が苦手です。これらは心を動揺させ生活にストレスを与えます。
関連記事: 「物語の結末やいかに?」をご覧ください。
でも、不安になるのも当然では?
認識される脅威FOFDは実際のリスクに見合ったものなのでしょうか?
関連記事: 「ハワイ不動産 - 売主の情報開示義務」をご覧ください。
住宅地全体を買い占めてでもいない限り、その地区の将来の開発を妨げる事はできないでしょう。私たちにはどうすることもできません。残された方法はいかにその環境と付き合っていくかです。イライラしても仕方ありません。
だとしたら、このように考えてみましょう。
- 将来の開発に対する不安を抱く事は私たちが幸せになるための一助となるだろうか? - おそらくなりません。
- その不安は私たちの可能性を最大限に引き出す妨げになっていないだろうか? - 妨げになっている可能性があります。
- 不安なあまり気づかないうちに実行可能な選択肢を削除していないだろうか?-多くの場合削除している可能性があります。
ここからは冒頭に紹介した一般論をわかりやすく解説する実際にあった3つの例をご紹介します。
1) イリカイハーバーの開発
イリカイのマリーナ側はオーシャンフロントになっていて、ハワイ州が所有するマリーナ利用者のためのガラ空き駐車場です。これまで60年もの間、ハワイ州政府はこの土地の開発計画を協議してきました。最も可能性が高い最善の利用方法は駐車場を増設した高級ホテルコンドと「既存のマリーナ利用者のニーズ」を確保するための船の進水路の建設でしょう。
住民は建物の大きさや高さといった不確定要素に不快感を抱いてきました。なかには「眺望が損なわれ物件価値が下落するかも!」と不安になる住民もいます。ーしかし、はたしてどのような根拠に基づいてそんな心配をするのでしょうか?
ヒルトンホテルがイリカイのラグーン側にヒルトンラグーンタワーを建設したときのことを考えてみてください。イリカイのオーシャンビューは半分が切り取られてしまいました。当時、イリカイのオーナー達からは不安と激しい抗議の声が上がりました。
しかし結果は物件価格の下落とはなりませんでした。ヒルトンホテルはラグーンを整備し、イリカイの価格は上昇しました。少々狭くなったオーシャンビューですが、それでもとても素晴らしく「自宅からの眺望、この街の平和と平穏が破壊された、私の物件価値が下落した。」と恨み節を口にする人はいません。
ここから学べる教訓は、結果は往々にして予想より悪いものではないということです。
膨れ上がった不安が物件購入を控える自分自身への便利な言い訳になっていないだろうか?
言い訳になっているでしょう。よくあることです。
不安に感じていることを慌てて進める必要はありません。しかし悪影響を引き起こしそうにない未来のリスクにご自身の行く先を妨げられないようにしましょう。
イリカイハーバーの開発がイリカイの物件価値、賃貸の収益性、キャッシュフローに与える悪影響はほとんどまたは全く無いと私は予想しています。
イリカイのオーシャンビューは両側ともに賃貸収入、物件価値が引き続き堅調を維持するかもしくは上昇するでしょう。
私自身、イリカイのオーシャンビュー物件を4件所有しています。2件はラグーン側、2件はマリーナ側です。私はイリカイの長期的未来を信じています。また、パッシブキャッシュフローの目的でイリカイの賃貸物件をさらに購入する準備をしています。長期的に見ればマリーナ側もラグーン側もそれほど大差はありません。人生とはシンプルなもので、分析しすぎるのは逆効果なのです。
マリーナ側の駐車場が将来高級物件に開発されると考えてみてください。イリカイの全てのコンドミニアムの価格が底上げされるでしょう。
ただし、私の言葉を鵜呑みにしないでください。
FOFDは経済的なメリットが不安による抵抗を抑え込むまでの一時的なものです。
新たな開発は、地元企業や物件オーナーの事業向上と繁栄に繋がる地区全体の性質と価格を相乗的に押し上げます。
関連記事: 「ワイキキホテル群の歴史」をご覧ください。
イリカイが建設された時のことを考えてみてください。当時は26階建てのマンモス建造物と捉えられていました。世間は大騒ぎし、計り知れないFOFD引き起こしました。その結果、市はワイキキでの新たな高層ビル建設の一時停止措置を発令しました。
しかし税収増加と経済的メリットの魅力に突き動かされ停止措置は長く続きませんでした。以後、1970年代にワイキキは今日のスカイラインのほとんどを形成する空前の建設ブームを経験します。現在のイリカイはその高層ビル群にすっかり溶け込んでいます。この時以降ワイキキの物件価値は上昇を続け、その後の歴史は周知のとおりです。
このあとは、今にして思えば考えすぎだったFOFDをあと2つご紹介します。
2) フォーパドルのオーシャンビューを遮ったリッツカールトン
ワイキキにあるフォーパドルはかつてフォートデルッシービーチパークの先に広がる大きく開けたオーシャンビューが望めるコンドミニアムでした。リッツカールトンワイキキが建設されるまでは…。建設はフォーパドルコンドミニアムの海側ユニットからの眺望とその物件価値に大打撃を与えると予想されました。FOFDが蔓延し、コンドミニアムのオーナー達は激しく不平を唱えました。
物件価値が下落するのを見越し、慌ててコンドミニアムを売却した人もいます。
今になって思い返してみれば、リッツカールトンの開発が最初に発表されたときが最も強い不安がよぎった時でした。そしてまた、売却するには最悪の時期でした。
あの時売却した人たちは、当時の決断を後悔しているようです。
フォーパドルからのオーシャンビューが狭くなる一方で、物件価値と収益性は下落しませんでした。残されたオーシャンビューはそれでもなお魅力的です。リッツカールトンの開発により周辺は整備され活力を取り戻しました。フォーパドルコンドミニアムの価値は底上げされました。
3) コンベンションセンタービュー
ヴィラオンイートンスクエアと1717アラワイは長きにわたりアラワイ運河の向こうに広がる遮るもののないマウンテンビューを堪能できるコンドミニアムでした。ところがハワイコンベンションセンターの建設地としてアラワイ運河沿いの広い空き地が選定されてからは全てが大きく変わろうとしていました。この発表により周辺のコンドミニアムオーナーは混乱しました。
これが災い転じて福となると誰が気づいていたでしょうか?新しいコンベンションセンターは、緑が生い茂るトロピカルなランドスケープと相まって世界的な名建築となりました。新たにたくさんの大きな木々が植えられました。
今日では、それまでコンドミニアムのオーナーたちが眺めていた古く不毛の駐車場から大きく改善されゴージャスな眺望となりました。
まとめ
そこに広がる景色の最前列を占拠していない限り、遮るもののない眺望を永遠に保障されること事はありません。
そんななかで選択肢としては、
- 新たな開発によりいずれは目の前の眺望が変わるということを受け入れる。または
- 永遠にオーシャンビューが保証された最前列のオーシャンフロント物件を購入する。
ただし、もう一つだけ知っておきたいことがあります。億万長者のプレイグラウンドと言われるコートダジュールの都市国家モナコで起きていることを考えてみてください。ニューヨークのセントラルパークよりも小さい面積のモナコは世界でも最も人口密度の高い国のひとつです。不動産価値の平均は1平方フィートあたり4560ドルです。
ここではオーシャンフロント物件でもその前が埋め立てられてしまいます。この方法はオランダ人により最初に開拓されました。結局は、実行可能性と土地の「有効利用」に行き着くのです。
となるとFOFD対策はどうすれば良いのでしょうか?
FOFDをFOTBPに置き換えるというのはどうでしょう。FOTBPとはFocus On The Bigger Pictureの頭文字で、より対極的に見るという意味です。全てのチャンスは何らかのリスクを伴うことを肝に銘じておきましょう。
どのような判断を下すはあなた次第です。しかし、FOFDに雁字搦めにされて進路を阻まれることのないようにしましょう。人生を楽しみ不確実性に慣れていきましょう。慎重に計画を練り、ご自身の選択に基づく結果に責任を持ちましょう。ご自身管理できる範囲内で問題解決に集中し、あとは思い悩まずどっしり構えましょう。